吉田つねひこ「政治が視えるメルマガ」の第100号です。
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テーマ : 保 守 を 考 え る -その7― 《我が国の保守》
~はじめに~
昨年の9月まで「保守を考える」というテーマで論じさせていただいておりま
したが、10月に衆議院議員総選挙が実施されたため、このテーマについてのお
話が中断しておりました。今号より再開させていただきたいと思います。
【乙】我が国の政治学ないしは政治哲学における保守主義の定義
我が国の政治学ないしは政治哲学における保守主義の定義について、例えば、
丸山真男門下の戦中派を代表する政治学者・思想史家として知られる橋川文三
(1922-1983)は、「一定の歴史的段階において発達するにいたった特定の政
治思想の傾向を指す」(橋川「日本保守主義の体験と思想」〔『橋川文三著作
集』第六巻、筑摩書房、1986 年〕5 頁)と述べ、その説明として、それは
第一につねに<現状>のなかに守るべきものと改善すべきものを弁別し、絶対
的破壊の軽薄と一切の改善をうけつけない頑迷とをともに排除しようとするも
のであり、第二にそのような<保守と革新>とにあたっては旧い制度の有益な
部分が維持され、改革によって新しくつけ加えられた部分は、これに適合する
ようにされるべきであり、全体としては、徐々としてはいるが、しかし、きれ
目のない進歩が保たれることを政治の眼目とする、というところに、その顕著
な特色が存在する(同上、7 頁)。という所説を紹介しています。これは以前
私が述べた「真の意味での保守の思想とは、“大切なものを守り保つこと”そ
して“そのために変わらなければならない”のだと思います。」と極めて近い
意味であり、エドマンド・バーク『フランス革命の省察』に依拠するものです
が、橋川はこの意味での保守主義の日本における事例を、明治20 年代に雑誌
『日本人』を主宰した三宅雪嶺、志賀重昴、杉浦重剛らや、新聞「日本」を創
刊した睦羯南らに認めようとしています。橋川によれば彼らに共通していえる
ことは、その「国粋保存」の唱道が決して江戸時代の鎖国的精神や幕末時の攘
夷的精神の再来ではなく、西洋文明の優越性と普遍性を先験的に信奉し、国民
生活のあらゆる伝統を旧物として無視し破壊しようとする風潮に対する反発か
らなされていたことであった、という部分です。こうして伝統の中の有益なも
のを維持・保存し、それとの切れ目のない連続において進歩・革新を図ろうと
する立場をもって保守主義とする、という理解が学問の世界における一つの定
説を形づくっていると見なすことが出来るわけです。
さて、上記の点を鑑みながら、現代日本における保守主義を考えてまいりま
しょう。真の保守主義を理解しようとする人々の多くは現代政治において「保
守」という言葉を乱用しすぎではないかという危惧を抱いているのではないで
しょうか?例えば「外国人は出ていけ」などと言う排外主義のことを保守だと
考える人もいることです。ジェンダーに関しても「男女平等は日本の古き伝統
とは異なる」と主張することが保守であるわけでもありません。また決して保
守主義=愛国主義でないことも理解すべきですし、保守主義とは天皇陛下を尊
重する考え方と合一であるという印象をお持ちの方もいるかもしれませんが、
必ずしもそうではないと思います。現代日本には革命勢力が目の前に迫ってい
る環境にはなく、保守はその敵を見失い、自らの定義を見失い、保守そのもの
がハイパーインフレを起こしている状況ではないでしょうか?例えば、保守の
父とされる前述のバークは興味深いことに、米国独立運動において独立派に賛
成しています。加えて当時の国王が非常に専制的になった際には激しい批判を
展開しました。バークにとっては国王の独裁化は、国王は議会の中でこそ機能
するという英国の伝統を脅かすものだったのです。数稿前にも述べたように、
勿論バークは国王そのものを否定したわけではありません。そもそも単純に「
反君主」=革新、「親君主」=保守という話ではないのです。バークは権能と
役割を逸脱し、自由を尊重する英国の良き伝統を崩すのであれば、それが国王
であっても批判し対抗することこそが愛国なのだと考えたわけです。
保守の真髄が、“大切なものを守り保つこと”そして“そのために変わらな
ければならない”であるのであれば、そこには過去に対する深い洞察と現実主
義の双方が重要となります。こうした側面を無視して保守を主張することは出
来ないと考えます。
次稿では2000年以降の日本の保守を中心に考察を進めていきます。
(次号に続く)
立憲民主党愛知県第1区総支部長 衆議院議員 吉田つねひこ